近年、サーバーはクラウドコンピューティングの技術によって存在が曖昧になりつつある。

本作ではクラウドサーバーを仮想化されたサーバー、起動したいサーバーの数だけのハードウェアを用意することなくサーバーを「ソフトウェアとして実行」する技術のこととして扱う。ハイスペックなコンピューターの中に必要最低限のスペックを持った仮想的なコンピューターを大量に立ち上げたり、複数のハードウェアの連携により1台のハードウェアではありえないスペックの仮想的なコンピューターをまるでソフトウェアで設定するかのように立ち上げたりできる技術である。ハードウェアとしてのサーバーの存在は曖昧になり、プログラムの実行やデータの保持を行う本体はまるで雲隠れしている。

ネットワークの先のコンピューターが応答する時、そのコンピューターのCPUは電気を消費して計算を行い、熱を発する。私は熱の発生がハードウェアとしてのサーバーが存在していることの表れと考え、本作を制作した。

雲は気象予測に欠かせない要素であり、これに注目した。このサーバーでは2種類の雲をシミュレーションしている。1つ目はCPUの上に乗るストームグラスである。ストームグラスは19世紀頃に使用された気象予測の道具で、天候により変化する内部の白い結晶を観察することで気象予測できるとされていた。CPUの熱により温められた液体が結晶を持ち上げ、入道雲と同じ仕組みで雲をシミュレーションする。2つ目は雲の動きや流れをシミュレーションするゲームエンジンである。近年では浮力と気圧を正確に計算した雲の物理シミュレーションがゲームの背景としての表現だけではなく、気象予測にも使用することが試されている。

本作はグローバルIPを持ち、ウェブサイトを配信している。同時にアクセスしている人数に応じてゲームエンジン内で雲が増え、CPUはより電気を消費し、熱を発する。その熱を再利用しストームグラスの内部でまた雲をシミュレーションする。